偽装請負の見分け方|SES・客先常駐で働く人向けチェックポイント
公開日: 最終確認日:
※ 最終確認日は、記事・ツールの内容を、法令や公的資料をもとに作成した確認資料と照らし合わせて確認した日です。確認方法は編集方針をご覧ください。
客先に常駐して働いていると、「この指示、本当に自社経由でいいんだっけ」「勤怠の管理、客先のシステムでやってるけど大丈夫なのかな」といった違和感を持つことがあります。いわゆる「偽装請負」は、ニュースやSNSでもよく見かける言葉ですが、実際に自分の働き方がそれにあたるのかどうかを判断するのは簡単ではありません。
この記事では、SES・客先常駐・準委任契約で現場に出て働いている方向けに、偽装請負を考えるうえでの基本的な考え方と、見分け方のポイントを整理します。
この記事でわかること
- 偽装請負がどういう考え方で判断されるものか(昭和61年労働省告示第37号の基本構造)
- 準委任契約(SES契約)でもこの考え方が対象になること
- 「誰が指示を出しているか」「業務が独立して進められているか」という2つの視点でのチェックポイント
- ありがちな現場の場面を例に、どんな点が気になるポイントになりやすいか
- システム開発で客先と密にやりとりしている場合の考え方(疑義応答集 第3集)
偽装請負とは何か——「契約の形式」より「働き方の実態」
偽装請負とは、契約書の上では請負契約や準委任契約になっているのに、実際の働き方が労働者派遣に近い状態になっていることを指す言葉として使われています。労働者派遣は、派遣先(発注元)が労働者に対して指揮命令を行うことが制度上想定された働き方です。一方、請負・準委任は、業務を引き受けた会社(自社・所属会社)が自ら労働者を指揮管理し、業務を独立して遂行することが前提になっています。
この違いを判断するための基本的なものさしが、昭和61年労働省告示第37号(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準)です。ごく簡単にまとめると、次の2つの要件がそろって初めて「請負」として扱われる、という考え方が示されています。
- 作業の進め方や労働時間の管理を、発注元ではなく所属会社が自ら行っていること(指揮命令に関する要件)
- 業務に必要な費用や機材を自社でまかなう、または自社の企画や専門的な技術・経験に基づいて業務を処理するなど、発注元から独立した形で業務を進めていること(業務の独立性に関する要件)
このどちらかが崩れている場合、契約上は請負・準委任であっても、実態としては労働者派遣に近い状態(いわゆる偽装請負)と評価される可能性があるとされています。重要なのは、これは「契約書に何と書いてあるか」ではなく「実際の現場でどう働いているか」という実態で判断される、という点です。また、それぞれの要件はいくつかの判断要素を総合的に見て判断されるとされており、一つの事情だけで結論が決まるものではありません。上の説明は告示の内容を平易にまとめたものなので、正確な判断要素は告示本文と疑義応答集(記事末尾の出典)もあわせてご確認ください。
準委任契約(SES契約)でも対象になる
SESでよく使われる準委任契約は「成果物の完成を約束する請負契約」とは性質が異なりますが、この告示の枠組みでは請負・準委任のいずれも同じ考え方で判断される対象とされています。「うちは準委任だから請負とは違う話」と考えてしまいがちですが、指揮命令の主体や業務の独立性という観点では、契約類型にかかわらず同じチェックが当てはまると理解しておくとよいでしょう。
なお、報酬の決め方についても触れておきます。SESでは稼働時間(人月単価やタイムシート)に応じて報酬が決まる契約が一般的です。これは業務の独立性という観点では気になる要素の一つとされていますが、高度な技術・専門性に基づく業務であるなど合理的な理由がある場合には、時間精算であること自体が直ちに問題とされるわけではないとされています。報酬の仕組みは、あくまで他の要素とあわせて総合的に見る視点の一つと考えられます。
見分け方のポイント①——指揮命令は誰が出しているか
まず確認したいのは、日々の仕事の指示や管理を実際に誰から受けているか、という点です。具体的には次のような場面を振り返ってみてください。
- 作業内容や進め方の指示を、発注元(客先)の社員から直接受けているか、それとも自社の管理者・リーダーを経由しているか
- 作業のやり直しや出来栄えの評価を、発注元から直接受けているか
- 始業・終業の時刻や休憩、残業の可否、欠勤・遅刻の扱いなど、勤怠まわりの管理・承認を主に行っているのは発注元か自社か
これらのうち発注元側で行われているものが多いほど、指揮命令に関する要件との関連が気になるポイントとして挙げられます。
もう一つ、現場でよく話題になるのが「発注元の社員との混在配置」です。ただし、混在して働いていること自体がそのまま問題とされるわけではありません。厚生労働省の疑義応答集では、混在や区分がないこと自体は直ちに偽装請負と判断されるものではなく、その結果として発注元が請負労働者に直接指示せざるを得なくなっている場合に問題になるとされています。つまり見るべきなのは「席が隣かどうか」ではなく「同じ指揮系統の中で、発注元から直接指示を受ける状態になっているかどうか」です。
システム開発の現場で、客先と密にやりとりしている場合は?
ここでは、請負・準委任(SES契約など)で働いている場合の考え方を整理します。
システム開発の現場では、客先の担当者と会議やチャット、プロジェクト管理ツールでやりとりしながら進めることがよくあります。厚生労働省の疑義応答集(第3集)では、アジャイル型開発(要件を固めずに着手し、短い期間で開発とリリースを繰り返す進め方)を題材に、この点の考え方が示されています。
まず、準委任契約でアジャイル型開発を行う場合でも、実態として発注元と自社の労働者との間に指揮命令関係があれば、契約の形式を問わず、労働者派遣事業に該当し、労働者派遣法の適用を受けるとされています。ここでも、契約の名前ではなく実態で見る点は同じです。
そのうえで、発注元とのやりとりがあること自体については、次のように整理されています。
- 会議や打ち合わせ、メール、チャット、プロジェクト管理ツールに双方の関係者が参加していても、実態として対等な関係のもとで情報共有や助言・提案が行われ、自社側の担当者が自律的に判断して進めているのであれば、偽装請負と判断されるものではないとされています。
- 対等な関係のもとで自社側の担当者が自律的に判断して進めている限り、発注元の担当者から、開発の前提となる内容の詳しい説明や、要件を明確にするための情報提供を受けたり、技術的な議論や助言・提案を受けたりすることも、それだけで直ちに偽装請負と判断されるわけではないとされています。
- 他方で、発注元の担当者が自社の労働者に直接、業務の遂行方法や労働時間などについて指示を出すなど、実態として指揮命令があると認められる場合は、偽装請負と判断されることになるとされています。説明や助言のかたちをとっていても、実態が指揮命令であれば同じです。
つまり、「客先とよく話すかどうか」ではなく、「業務の進め方や時間について、客先から直接指示を受ける状態になっていないか」が分かれ目になります。業務の遂行方法や労働時間、進捗が遅れたときの仕事の割り付け・作業の順序・緩急の調整といった指示が必要な場合は、自社側が管理責任者を選任するなどして、自ら指示(指揮命令)を行う必要があるとされています。
自社の管理責任者がいる場合・会議に出ていない場合
自社側に管理責任者(現場の責任者)が選任されていても、発注元が直接、業務の遂行方法や労働時間などの指示を行えば、偽装請負と判断されることになるとされています。
一方で、対等な関係で自社側が自律的に進めている限り、管理責任者がすべての会議に同席していないことだけで、直ちに偽装請負と判断されるわけではないとされています。ただし、指示が必要になったときに、自社側が管理責任者を選任するなどして自ら指揮命令を行える体制を整えておくことが必要とされています。
「スキルシート」の提出を求められる場合
適正な請負等といえるためには、労働者の配置や変更を自社が自ら決めることが求められます。そのため、発注元が特定の人を指名して業務に就かせたり、特定の人について就業を断ったりする場合は、発注元が配置の決定や変更に関わっていると判断されることになり、適正な請負等とは認められないとされています。
一方、技術力を確認する一環として、技術・技能のレベルや経験年数などを記載したスキルシートの提出を求められても、それが個人を特定できるものではなく、発注元がそれによって個々の労働者を指名したり特定の人の就業を断ったりできるものでなければ、配置の決定や変更に関わっているとまではいえず、直ちに偽装請負と判断されるわけではないとされています。自分のスキルシートがこれに当たるかどうかは、個人を特定できるものかどうかなど、実際の扱いによります。
なお、第3集で示されたこれらの考え方は、アジャイル型開発以外のシステム開発を請負(準委任を含む)で行う場合にも当てはまるとされています。
見分け方のポイント②——業務が独立して進められているか
もう一つの視点は、業務が自社の責任で独立して進められているかどうかです。次のような点を確認してみましょう。
- 作業する場所(オフィス等)や、使用するPC・開発環境などの機材を、主に用意・指定しているのは発注元か自社か
- 契約金額の決まり方は、稼働時間に応じたものか、成果物の完成・検収に対するものか
- 業務に必要な費用の負担や、業務上のミス・トラブルが起きたときの責任の所在は、実質的にどちらにあるか
これらのうち発注元側にあるものが多いほど、業務の独立性に関する要件との関連が気になるポイントになります。
ありがちな現場の場面で考えてみる(架空の例)
イメージを持ちやすいよう、架空の例を2つ挙げます。実際の判断は個々の事情によって異なるため、あくまで考え方の参考としてご覧ください。
例1:SES契約で客先に常駐しているAさんは、朝会で客先のプロジェクトマネージャーから直接その日の作業内容の指示を受け、勤怠の承認も客先のシステム上で客先の担当者が行っています。PCや開発環境もすべて客先から貸与されたものです。契約金額は稼働時間に応じて決まっています。——このような状態は、指揮命令・業務の独立性のどちらの観点からも、発注元の関与が強い例として気になるポイントが多いと言えそうです。
例2:同じく客先に常駐しているBさんは、日々の作業指示は自社の現場リーダーを通じて受けており、勤怠の管理・承認も自社の仕組みで行われています。PCは自社から支給されたものを使い、定例会議には自社のリーダーが出席して、そこから社内に情報を展開しています。——この場合、客先に常駐していても、指揮命令の窓口が自社側に保たれていると考えられ、気になるポイントは相対的に少ない例と考えられます。なお、対等な関係のもとで自社側が自律的に進めている限り、自社の管理責任者がすべての会議に同席していなくても、それだけで直ちに偽装請負と判断されるわけではないとされています(上記の節参照)。
このように、「客先に常駐しているかどうか」自体は判断のポイントではなく、「誰が指示を出し、誰が管理し、誰が費用や機材を負担しているか」という実態が見るべきポイントになります。
気になる点に気づいたらどうすればよいか
チェックしてみて気になる点が複数あったとしても、それだけで「偽装請負である」と断定できるものではありません。判断は個々の事情を総合的に見て行われるものであり、この記事や後述の診断ツールも、法的な判定を行うものではなく、あくまで気づきのきっかけを提供するものです。
気になる点があった場合や、状況を詳しく確認したい場合は、次のような窓口に相談することができます。
- 都道府県労働局(需給調整事業部門):労働者派遣・請負に関する相談窓口。名称は都道府県により異なる場合があります(需給調整事業室/課、職業安定課が窓口の県もあります)。連絡先は厚生労働省・各都道府県労働局のウェブサイトでご確認ください。
- 総合労働相談コーナー:全国の労働局・労働基準監督署内に設置されている、労働問題全般の無料相談窓口
- お近くの労働基準監督署
- 必要に応じて、社会保険労務士などの専門家
よくある質問
Q1. 客先に常駐していること自体が偽装請負なのですか?
常駐して働くこと自体が直ちに問題とされるわけではないと考えられます。ポイントは、指揮命令の主体や業務の独立性が実態としてどちらにあるかです。常駐していても、指揮命令の窓口が自社側に保たれているケースもあります。
Q2. 準委任契約(SES契約)は請負とは別物だから、この話は関係ないですよね?
準委任契約も、労働者派遣か請負(準委任を含む)かを区分する告示の考え方の対象になるとされています。契約の名称にかかわらず、実態のチェックは同じように当てはまります。
Q3. 稼働時間に応じて報酬が決まる契約は、それだけで問題になりますか?
時間精算であること自体が直ちに問題とされるわけではないとされています。専門的な技術・経験に基づく業務など合理的な理由がある場合は、他の要素とあわせて総合的に見る視点の一つとして考えられています。
Q4. 発注元の社員と席が隣で、同じ会議に出ているのですが大丈夫でしょうか?
混在配置や区分のなさ自体は、直ちに偽装請負と判断される要素ではないとされています。気にすべきなのは、その結果として発注元から直接指示を受ける状態になっているかどうかです。会議やチャットに一緒に参加していること自体も、対等な関係で自社側が自律的に進めているなら、それだけで偽装請負と判断されるものではないとされています。詳しくは本文の『システム開発の現場で、客先と密にやりとりしている場合は?』をご覧ください。
Q5. 気になる点があった場合、まず何をすればよいですか?
一人で判断を急がず、まずは自分の契約書や労働条件通知書を確認し、記事内で紹介した相談先(都道府県労働局や総合労働相談コーナーなど)に状況を伝えて相談することをおすすめします。
Q6. 客先のメンバーと同じチャットや会議で、技術的な相談や助言を受けています。偽装請負になりますか?
対等な関係のもとで技術的な議論や助言・提案が行われ、自社側の担当者が自律的に判断して進めているのであれば、それだけで偽装請負と判断されるものではないとされています。他方、客先から直接、業務の遂行方法や労働時間などの指示を受けている実態がある場合は、偽装請負と判断されることになるとされています。実際の判断は個々の事情によるため、気になる点は相談先にご確認ください。
自分の現場をチェックしてみる
ここまで紹介したポイントを、いくつかの質問に答える形で振り返れるチェックツールを用意しています。回答は保存・送信されず、ブラウザ内で完結します。
→ 偽装請負リスク診断 で、自分の現場の状況をチェックしてみる
出典
- 厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号): https://www.mhlw.go.jp/content/000780136.pdf
- 厚生労働省「37号告示に関する疑義応答集」(一覧ページ): https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gigi_outou01.html
- 同 疑義応答集(第1集): https://www.mhlw.go.jp/content/001328443.pdf
- 同 疑義応答集(第2集): https://www.mhlw.go.jp/content/000780138.pdf
- 同 疑義応答集(第3集)【アジャイル型開発と契約方式】: https://www.mhlw.go.jp/content/001704257.pdf
- 告示本文・疑義応答集・内閣府「地方公共団体の適正な請負(委託)事業推進のための手引き」等の収録資料(総務省掲載): https://www.soumu.go.jp/main_content/000543074.pdf
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的な助言や個別事案の判定を行うものではありません。実際の判断は個々の契約内容・就労実態によって異なります。正確な判断が必要な場合は、上記の相談先や社会保険労務士などの専門家にご確認ください。