「SESはやめとけ」の前に|偽装請負・二重派遣の確認ポイント
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「SESはやめとけ」——エンジニアの働き方を調べていると、こうした言葉を目にすることがあります。ただ、SESという働き方そのものの良し悪しを一括りに断じるのは簡単ではありません。この記事では、良いか悪いかを決めつける前に、法的に確認しておくと安心なポイント(偽装請負や二重派遣にあたらないか、誰が指示をしているか、など)を、できるだけ中立に整理します。
この記事でわかること
- 「SES」は法律用語ではなく、法的には契約の種類と実態で判断されること
- 偽装請負・二重派遣・多重下請けの違い(混同しやすいので整理します)
- 自分の現場を振り返るための確認ポイント(判定ではなく、気づきのための質問)
- 偽装請負だった場合に関わってくる制度(労働契約申込みみなし制度)の存在
- 気になったときの相談先
そもそも「SES」とは?——法的には契約の種類と実態で見る
「SES(システムエンジニアリングサービス)」は、法律で定義された言葉ではなく、業界で使われている呼び方です。法律の世界では、会社と会社の間の契約が請負・準委任・労働者派遣のどれにあたるか、そして実際にどう働いているか(誰が指揮命令しているか)で整理されます。
つまり、「SESだから違法/合法」と一律に決まるわけではありません。大切なのは、契約の名前ではなく、現場の実態です。この考え方のものさしになるのが、偽装請負を考えるうえでの基準(昭和61年労働省告示第37号)です。くわしくは偽装請負の見分け方の解説もあわせてご覧ください。
混同しやすい3つの言葉を整理する
「偽装請負」「二重派遣」「多重下請け」は、よく一緒に語られますが、意味は別々です。重なることもありますが、分けて理解しておくと混乱しません。
| 言葉 | どういう状態か |
|---|---|
| 偽装請負 | 契約の形式は請負・準委任でも、実態としては発注元が労働者に直接指揮命令する労働者派遣のようになっているもの |
| 二重派遣 | 派遣で受け入れた労働者を、さらに別の会社に送り、その会社の指揮命令を受けて働かせること(職業安定法が禁止する「労働者供給」にあたるとされています) |
| 多重下請け(再委託) | 仕事が何段階もの会社を経て再委託されていくこと。契約の連なりそのものが直ちに違法なわけではなく、各段階で「誰が指揮命令しているか」が確認のポイントになります |
「SES=二重派遣」「多重下請け=違法」と単純に考える必要はありません。いずれも、契約の名前や段階の数ではなく、実際に誰が指示・管理しているかが見るべきポイントになります。
自分の現場を振り返る確認ポイント
以下は、偽装請負などにあたらないかを「自分で整理するための質問」です。これに答えると違法かどうかが判定できる、というものではなく、気になる点に気づくためのきっかけとしてご覧ください。
- 自分が雇用契約を結んでいるのは、どの会社か(雇用元)
- 日々の作業の指示・やり直しの指示・出来栄えの評価を、主に誰から受けているか
- 始業・終業・休憩・残業・欠勤などの勤怠の管理・承認を、主に誰がしているか
- 会社間の契約は、請負・準委任・労働者派遣のどれと説明されているか
- 契約上の説明と、実際の働き方(指示の受け方)が合っているか
- 客先とのやりとり(会議・チャットなど)の中で、助言や説明にとどまらず、業務の進め方や時間について直接指示を受けていないか
労働局の資料では、自分の使用者(所属会社)からではなく、発注元から直接、業務の指示や命令を受けている場合は、偽装請負である「可能性が高い」とされています。あくまで「可能性」であり、最終的な判断は実態を総合的に見て行われます。各項目をもう少しくわしく確認したい方は、偽装請負リスク診断で、いくつかの質問に答えながら整理することもできます(回答はブラウザ内だけで計算され、保存・送信されません)。
客先と会議やチャットで密にやりとりしていたら?
ここでは、請負・準委任(SES契約など)で働いている場合の考え方を整理します。
SESや客先常駐では、客先のメンバーと同じ会議、チャット、プロジェクト管理ツールを使って進めることが多くあります。厚生労働省の疑義応答集(第3集)では、システム開発の現場について、次のような整理が示されています。
- 準委任契約でも、実態として発注元と自社の労働者との間に指揮命令関係があれば、契約の形式を問わず、労働者派遣事業に該当し、労働者派遣法の適用を受けるとされています。
- 一方、会議やチャットへの参加、技術的な議論や助言、開発の要件の説明を受けることは、対等な関係のもとで自社側が自律的に判断して進めているのであれば、それだけで直ちに偽装請負と判断されるわけではないとされています。
- 分かれ目は、発注元から直接、業務の遂行方法や労働時間などに関する指示(指揮命令)を受けているかどうかです。業務の進め方や時間、進捗が遅れたときの仕事の割り付けや順序の調整などの指示が必要な場合は、自社側が自ら行う必要があるとされています。自社側に管理責任者がいても、発注元が直接指揮命令すれば、偽装請負と判断されることになるとされています。
「SESは客先とやりとりが多いからよくない」とも「会議に出ているから心配いらない」とも、一概にはいえません。見るべきなのは、やりとりの多さではなく、指示の中身と出どころです。くわしい考え方は偽装請負の見分け方の解説にまとめています。
配置については、客先が特定の人を指名したり、特定の人の就業を断ったりする場合は、適正な請負等とは認められないとされています。一方、個人を特定できず、指名や就業の拒否に使えないスキルシート(技術レベルや経験年数など)の提出を求められるだけであれば、直ちに偽装請負と判断されるわけではないとされています。自分のスキルシートがこれに当たるかどうかは、個人を特定できるものかどうかなど、実際の扱いによります。
もし偽装請負だったら?——「労働契約申込みみなし制度」の存在
偽装請負などの違法な状態で労働者を受け入れていた場合に関わってくる制度として、労働者派遣法に「労働契約申込みみなし制度」というものがあります。ごく簡単にいうと、一定の要件を満たす場合に、受け入れていた側(発注元)が、その労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなされる、という仕組みです。
ただし、この制度は「偽装請負なら自動的に直接雇用される」というものではありません。誤解しやすいので、次の点をおさえておくことが大切です。
- 偽装請負として対象になるには、「法の適用を免れる目的」があったことなどの要件があるとされています(違法な状態であるだけでは足りないとされています)。
- 受け入れていた側が、違法であることを知らず、かつ知らなかったことに過失がなかった場合は、対象外とされています。
- 「労働契約を申し込んだものとみなす」にとどまり、労働者がそれを承諾してはじめて契約が成立する仕組みです。承諾できる期間にも限りがあるとされています。
- みなされる労働条件は、それまで(偽装請負などの状態で働いていたとき)と同じとされており、条件が良くなるとは限りません。
このように、適用の有無は個別の事情によって判断される複雑なものです。「自分のケースはどうなのか」を知りたい場合は、自己判断で結論を出さず、次の相談先や専門家に確認することをおすすめします。
気になったときの相談先
自分の働き方が偽装請負などにあたらないか気になる場合や、実際に困っている場合は、一人で抱えず、次のような窓口に相談できます。
- 都道府県労働局(需給調整事業を担当する部門):労働者派遣・請負に関する相談窓口です。名称は都道府県により異なる場合があります。
- 総合労働相談コーナー:全国の労働局・労働基準監督署内に設置されている、労働問題全般の相談窓口です。無料・予約不要で利用できます。
- 必要に応じて、弁護士や社会保険労務士などの専門家
窓口の名称・連絡先・受付時間は地域によって異なり、変わることもあります。最新の情報は、厚生労働省や各都道府県労働局のウェブサイトでご確認ください。
よくある質問
SESは違法なのですか?
SESは法律上の用語ではなく、業界で使われる呼び方です。法的には、会社間の契約が請負・準委任・労働者派遣のどれにあたるか、そして実際の働き方(誰が指揮命令しているか)で判断されます。SESという働き方そのものが一律に違法というわけではなく、実態によっては偽装請負などの問題が生じることがある、という整理になります。
客先に常駐していたら偽装請負ですか?
常駐しているかどうかは、それ自体で偽装請負かどうかを決めるものではないとされています。ポイントは、日々の指示・評価・勤怠の管理を、自分の所属会社が行っているか、それとも発注元(客先)が直接行っているかなどの実態です。労働局の資料では、発注元から直接、業務の指示や命令を受けている場合は偽装請負である可能性が高い、とされています。
客先のメンバーとチャットや会議で一緒にやりとりしていると、偽装請負になりますか?
厚生労働省の疑義応答集(第3集)では、会議やチャットなどに双方が参加していても、対等な関係のもとで自社側の担当者が自律的に判断して進めているのであれば、それだけで偽装請負と判断されるものではないとされています。他方、客先から直接、業務の遂行方法や労働時間などの指示を受けるなど、指揮命令があると認められる場合は、偽装請負と判断されることになるとされています。やりとりの多さではなく、指示の中身と出どころが分かれ目です。
二重派遣と偽装請負は同じものですか?
別の概念です。偽装請負は、契約の形式は請負・準委任でも実態が労働者派遣になっているものを指します。二重派遣は、派遣で受け入れた労働者を、さらに別の会社に送って指揮命令を受けさせることで、職業安定法で禁止されている「労働者供給」にあたるとされています。契約が何段階も連なる多重下請けそのものは、直ちに違法というわけではありません。
偽装請負だったら、客先に直接雇用してもらえるのですか?
労働者派遣法には、偽装請負などの違法な状態で労働者を受け入れていた場合に、一定の要件のもとで、受け入れていた側が労働契約を申し込んだものとみなす制度(労働契約申込みみなし制度)があります。ただし、適用には「法の適用を免れる目的」があったことなどの要件があり、受け入れ側が違法と知らず過失もなかった場合は対象外とされます。また、『申し込んだものとみなす』にとどまり、労働者が承諾してはじめて契約が成立し、労働条件も従前と同じで良くなるとは限りません。適用の有無は個別の事情によって判断されるもので、偽装請負なら必ず直接雇用される、という制度ではありません。
気になる点があったら、どこに相談できますか?
派遣・請負に関することは都道府県労働局(需給調整事業を担当する部門)、労働問題全般は全国の労働局・労働基準監督署内にある総合労働相談コーナー(無料・予約不要)で相談できます。必要に応じて、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談する方法もあります。
まとめ
「SESはやめとけ」という声の背景には、偽装請負や二重派遣、責任の所在が曖昧になりやすいことへの不安があるのかもしれません。ただ、SESという働き方が一律に良い・悪いと決まるわけではなく、契約の種類と現場の実態(誰が指示・管理しているか)で見ていくのが、法的な確認の基本です。気になる点があれば、決めつけずに事実を整理し、必要に応じて相談先を頼ってみてください。
自分の現場の状況を振り返ってみたい方は、偽装請負リスク診断もご利用ください。いくつかの質問に答えると、気になるポイントの目安を示します(法的な判定ではなく、気づきのためのツールです)。
この記事は、労働者派遣法・職業安定法や厚生労働省の公開資料をもとにした一般的な情報提供であり、個別の働き方が偽装請負などにあたるかどうかを判定したり、法的な助言を行ったりするものではありません。実際の判断が必要な場合は、上記の相談先や、弁護士・社会保険労務士などの専門家にご確認いただくことをおすすめします。
出典
- 労働者派遣法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/360AC0000000088
- 職業安定法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141
- 厚生労働省「労働契約申込みみなし制度」等(派遣労働者の受入れ): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000107577.html
- 厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00020.html
- 厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号): https://www.mhlw.go.jp/content/000780136.pdf
- 厚生労働省「37号告示に関する疑義応答集」(一覧ページ): https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gigi_outou01.html
- 同 疑義応答集(第3集)【アジャイル型開発と契約方式】: https://www.mhlw.go.jp/content/001704257.pdf
- 東京労働局「偽装請負について」: https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudousha_haken/001.html